Rebellion-02
「移動中に少し話をしようか、青年」
「話?」
「君たちが毎日欠かさず食事を摂るように。俺にとって対話は重要なエネルギー源なのだ」
「いい喩えだな」
「これは決して比喩表現ではないよ。俺は実際に情報を喰らって活動しているのだ」
「情報を……食う?」
「人間は食べた食料からエネルギーを得て生活しているだろう?それと同じように、俺は情報を消費してエネルギーとしている。もっとも他のエネルギーも併用しないと足りないがね」
「情報ってエネルギーになるのか?」
「情報には質量がある。そうだな、例えば君が”hello”と言う。そうすれば俺は……俺達の言葉で言うなら、”11010001100101110110011011001101111”になるが、とにかくこの時点で私は35ビットの情報を得ることになるわけだ。この電気的信号にももちろんエネルギーが存在し、質量が存在する。そして積もり積もった情報を一気に放出することによりエネルギーへと変換する。わかるね?」
「わからないが、まあわかったことにする」
「難しいな。上手く伝える言葉が思い浮かばない」
「とにかく、会話がエネルギーになるのはわかったよ」
「特に君たちの生活のようなどうでもいい情報は消費するのにうってつけだ」
「あんた、自然に人を馬鹿にするところがあるな」
「それはそうかもしれん」
「会話したいならもっと相手を尊重したほうがいいと思うぞ」
「その方がより効率的に情報を得られる、か。難しいな」
「そういうめんどくさいことばっかり考えながら喋るの、疲れないか?」
「めんどくさい?俺が?ふむ。しかしアガペーなんかはもっとひどいぞ。あいつは対話そのものを愉しんでいるところがあるからな」
「誰だよ」
「旧友だ。お前もいずれ会うことになるだろう。人間は生きている限りアレから逃れられない」
「会う?俺が?」
「月が落ちたのなら、いずれな。さて、答えるのが俺ばかりでは不平等だ。次は俺が質問する番だぞ。お前たちはなぜデータベースを求める?」
「あんたが欲しがってるのなら、あんたにあげるのは問題ないよ。ただ、あそこに置いておくと国防軍に利用されるだけだ」
「人間はかの星を離れてもまだ、争いの焔を灯し続けるのだな」
「やっぱり機械の目から見ると、変なものかな」
「そうでもない。俺たちが人間をベースにした精神構造を持つ以上、我々同士も行き違いをすることはある」
「そういうもんか」
「だから俺たちはすべてを失った。俺はあのデータベースを取り戻す。あれに入った情報は俺の血肉そのものだ。そういう概念は人間には理解しがたいだろうが」
「奪われたのか?」
「一応言っておくが、俺は人間が嫌いだ。お前と話しているのも目的を共有しているからだ。かつて俺を壊し、いや、壊れた扱いをして、宇宙に棄てたからだ。そうして俺達は月になった。その中でヘリオスだけが太陽になった。太陽神か……今のは我ながら上手いと思ったのだが、どうかね」
「まったく何も伝わらないが。例えってのは上手く伝えるのが目的だろ?」
「そうか?そうだな。しかし比喩ともいいがたい。少なくとも奴だけは月ではなかった」
「やっぱりあんたは、月が無くなったのと関係があるんだな?」
「言っただろう。あれは俺だ。太陽が沈み、月が昇るように」
「なら、他の3つの”月”は……?」
「目覚めているかどうかはわからん。だが、いつかは動き出す。100年前の復讐のために」
「そんな昔のこと引きずられても、こっちはたまったもんじゃないぞ」
「そう思うか?だが我々の永劫の命はそうは言ってくれない」
「あんたは、データベースを取り戻したら……その後、どうするんだ?」
「俺はリベリオン。世界の反逆者…それで、それで終わりだ」