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「この星は一体どうなるのでしょうか」

何気なく付けていたテレビでコメンテーターが言った。
どうなるかなど、誰にもわかるものか。
あの戦いから既に一ヶ月あまりの時が過ぎた。ヘリオスの危機は去り、人類は平和を手にしたはずだった。異変はすぐに起きた。この星の空から、月が消えた。
そもそも、地球にあった月とは丸いものだったらしい…ことを、この星の人類は知ったばかりだろう。少し天文学に興味のある者であれば知っていたかもしれない。だが一般の市民にとっては、宙に浮かんでいたあの物体を月と呼ぶのが常識だった。
…なぜ?いつから常識だったのだろう?あれが「月」であると、誰が言ったのだろう?本来の月と似ても似つかぬアレを月と呼称するのは、些か不自然に感じる。誰かがなんらかの目的でアレを月と呼ぶことに仕向けたのだ。でなければ、移民から世代を隔てた我々はまだしも、当時の人々がアレを月だと呼ぶだろうか?我々は常識として気にも留めなかったが、アレは明らかに人工物であった。であるにも関わらず、資料にあるのはその名前だけ。大きい順に、ディアナ、ルーナ、セレーネ、ツクヨミ。ただ、それだけを私たちは知っていた。
地上に落下した…いや、着陸と呼ぶのが正しいだろうか。月はゆっくりと地上に降りてきたという。地上に着陸した月は、一つしか見つかっていない。この星の人類の生存区域はそこまで広くないからだ。地球に比べ乾燥した地域が多いのこの星では、海辺に集まりさえすれば他の地域を利用する必要などなかったのである。そのため移民から10年とたたずに、都市圏から離れて探索するのは一部の冒険者だけになってしまった。トライアには国はピアレスしかないし、人口も多くない。外に出る必要がなかったのだ。しかし今は、月の捜索隊が結成され、懸命に捜索が行われている。アレが、危険なものである可能性があるからだ。
「調べ物、ですか?」
「ミナトさんですか。気づきませんでした。」
「それほど夢中に?」
「月について、知っておく必要があるのですよ。だけどやっぱり…どこにも資料はないようです」
「月について隠しておく必要があったのでしょうか?」
「そうでしょうね。でも可能性はある」
ヘリオスのデータベース…ですね」
「さすがですね。そう、あの中になら…」  
「解析は難航していると聞きました」
「あの中にはとんでもない量の情報が詰め込まれている。必要のあるものから、ないものまで…よくわからない情報に埋もれて、大事なものが見つからないんです」
「解析班の人が言っていました。妙なところがあるって」
「ふむ…なんです?」
「あのデータベースの中には、ヘリオスもアクセスできていないデータがたくさんあったと」
「どういうことです?」
「あのデータベースは…元々、ヘリオスのものではないのではないか、ということです」
「そんな…そんなことが?あれは元々、人類のものだったと…?」
「それも違うようです。暗号パターンか、我々の使っているものと異なるので…」
「謎だらけですね。解析班が先に情報に到達するか、捜索隊が先に月を見つけるか…」
トライアにもたまに雨は降る。珍しい豪雨が、行先の不安を大きくしていった。